自閉症療育

めぶき園の自閉症療育

園長 五十嵐康郎

自閉症療育の実際

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めぶき園では、生産活動、養育活動、クラブ活動、余暇活動等を行っています。障害の重い方も必ず活動に参加します。活動内容については可能なかぎり本人の希望に添うようにしています。多くの場合、活動自体は楽しいもの、生きがいとなっています。詩吟や太鼓、ハンドベル等では、自発的に人前に出て発表します。地域の詩吟の発表会やマラソン大会はたいていの場合日曜日に行われるのですが、彼らは自らの意思で家庭帰宅を取り止めて参加します。陶芸の窯に火を入れるとき、自分の作品を差し出します。

自分たちの作った野菜を販売している場所に、無言で親の手を引いて連れていきます。こうした彼らの姿を見ていると、彼らが生産的で前向きの指向性、人に認められたいというごく当たり前の気持ちを持っていることを痛感します。

食事は家庭用の食器を使用しています。席は決めないでその都度好きな席に座って食べます。一斉に食べるということもしていません。一定の時間内に席に着いた人から三々五々に食べます。毎月選択食やバイキングも実施しています。外出時の食事もメニューを見て個々人が好きなものを注文するようにしています。同性職員の介助や援助で毎日入浴するようにしています。髪型や服装は一人ひとりに合ったものにしています。

家族連絡会や個別面談でご家族のご意見やご要望をお聞きして、可能なかぎり生活や療育に取り入れます。できないことについてはきちんとご説明してご理解戴けるように努力をします。

居室での放尿や夜尿のある利用者に対し、一定期間、24時間体制で行動観察をして、個別プログラムを設定し、見直しながら援助します。洗面や歯磨き等の身辺処理のスキルは個別の状態を把握して、具体的な手立てを決めて取り組みます。

他動や飛び出しのある利用者には、マンツーマンで職員が見守るようにしています。

自傷や他傷行為のある人も改善されるまで見守ります。受け入れられる希望や要求には耳を傾け、不当な要求に対しては譲らず、大暴れをするような場合は、本人にも周囲の人にも怪我がないように寝かせてなだめて落ち着くことを求めて、落ち着いてきた状態を承認します。大暴れが殆ど見られなくなって、不快な刺激に対しても自分で我慢する等と言いながら情動をコントロールできるようになった人もいます。自傷や他傷に対しても叱ったり懲らしめたりしないで肯定的に接することが有効だと考えています。「どう対処したらいいのかわからない」「痛々しくて見るに堪えない」「何度も注意しているのにちっともわかってくれない」という援助者の不安や腹立たしさから反射的に禁止したり、嫌悪感を示すのではなく、援助者自らが感情をコントロールして、穏やかに肯定的に接することで自傷や他害が改善される。療育のポイントは自閉症者と援助者の関係であり、援助者の姿勢や態度、さらには援助技術を磨いていくことが最も重要な課題だと考えています。

 
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施設の職員は研修の機会が少ない。中には殆ど専門書も読まない、いわゆる経験主義に陥っている人が多いと、大変失礼な言い方かもしれませんがそう思っています。きちんと勉強して、療育理論や技法は勿論のこと、社会福祉情勢等にも目を向けて自分なりに理念や展望をもって取り組むことが重要だと考えています。

自閉症者が単に施設や社会に適応すればいいというのではなくて、彼ら自身の人生の豊かさ、自己実現を支援していくという視点が大変重要ではないかと思います。

自閉症療育には大きく分けてふた通りの考え方があると思っています。一つは社会適応や行動修正を重視する立場であり、もう一つは本人の人生や生きがいを大切にする立場です。前者の考え方は社会規範やあるべき行動モデルに合わせたり近付けようとしますが、後者の考え方は本人の意思や気持ちを尊重しながら、自己実現を目指します。

どちらの方法をとっても、周囲と摩擦や問題を起こさずに暮らせるようになることは可能だと思いますが、本人自身にとっては相当な違いがあるのではないかと考えています。したがって最近は機会あるごとに自閉症療育とは「人として敬意をもって接することにつきる」と申し上げています。